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【テクニカル】トラクションコントロールってなんですか?

みなさんこんにちは。トライアンフ東京の蔡誠司(さいせいじ)です。

最近のバイクは安全性、快適性、省燃費性などを高めること目的として、様々な制御をコンピューターで行うようになってきています。

その中でも、今回はリアタイヤが空転したときにエンジンパワーを抑えて、スリップダウンを防ぐ効果のあるトラクションコントロールについて、お話ししたいと思います。

そもそも「トラクション」とは何でしょうか。これは簡単に言ってしまえば、タイヤが地面を蹴る力、車体を前に押し出す力と考えると分かりやすいと思います。

タイヤと地面が接地する部分には摩擦力(グリップ力)が生じますが、この摩擦のお陰でエンジンのパワーをタイヤから地面に伝えることができて、初めて車体は前に進むことが出来るのです。

しかし、滑りやすい路面だったり、必要以上のパワーを掛けたりすると、その摩擦力(グリップ力)を越えてしまうことがあります。そうなるとタイヤは空転してしまい、車体を前に押し出す力が逃げてしまいます。この状態がスリップと言われる状態です。

車体はタイヤが摩擦力(グリップ力)の範囲内で路面をとらえて加速している状態が最も安定しているのですが、その反面、摩擦力(グリップ力)が失われている時は非常に不安定になってしまいます。

特にコーナーリングの最中であれば、そこに遠心力も加わります。この時、タイヤの摩擦力(グリップ力)は直進時の縦方向だけでなく、横方向の踏ん張りにも使われますので、スリップによる転倒を起こしやすくなってしまうのです。

このようなスリップ状態になった時には、摩擦力(グリップ力)を回復させるためにエンジンパワーを落とし、スピードを落とすのが有効な方法なのですが、これを瞬間的に判断して操作するのは難しかったりするものです。

そこで、車体に取り付けられたセンサーで状況を把握して、電子制御でスピード(エンジンパワー)のコントロールを人間に代わって行ってくれるのがトラクションコントロールなのです。

トラクションコントロールの歴史は古く、1935年まで遡ります。四輪車でカーブを通過する場合、外側と内側のタイヤの軌跡は異なります。当然、外側の方が軌跡が長くなりますので、スムーズに曲がるためには、外側のタイヤと内側のタイヤに回転差(外側>内側)が生じるようにするデファレンシャルギアと言うものが付いています。

しかし、このデファレンシャルギアは、その構造上、片方のタイヤがスリップ(空転)してしまうと、その空転した方ばかりにパワーを伝えてしまうのです。

もし、スリップ時にこのような状態になると、エンジンパワーを有効に使えないばかりでなく、タイヤに駆動力が伝わらず走行安定性まで低下してしまうのです。

そこで、その状態を解消する事を目的に開発されたのが、リミテッドスリップデフ(通称:LSD)と言う機械式の装置で、これがトラクションコントロールの始まりと言われています。

このLSDは四輪車のスポーツ走行には欠かせない装置で、その用途に応じて様々な形式(1way-1.5way-2wayなど)が作られ、今でも使われています。

その後、1970年頃になると電気式のトラクションコントロールが登場します。ホイールにセンサーを付け、回転差を感知したら作動する現代とほぼ同等の方式です。そして、1980年代に入るとラリー(主に未舗装のスリップしやすい悪路で行われる四輪車のレース)の世界で、走行性能の向上を目的に発展していったのです。

※TOYOTO GAZOO RACING より

このように、トラクションコントロールはエンジンパワーを有効に使う、悪路でのスリップ防止が目的で開発された技術だったのですが、結果としてスリップによる事故を防ぐことに繋がっていったため、安全性を高める目的で一般車に広がっていったのです。

今では四輪の世界にとどまらず、その有効性から二輪の世界にまで浸透しており、トライアンフでは全車にトラクションコントロールが装備されています。

基本的な仕組みは、センサーが前後ホイールの回転差を検知した時に、ECUというエンジンコントロールユニットが点火タイミング、燃料の噴射量、スロットルバルブ開度を調節することでパワーを抑え、リアタイヤの空転(スリップ)を抑えることでトラクションを回復するといったものです。

また、車種によってはIMUという慣性計測装置と組み合わせることで、バンク角までも考慮して、コーナーリング時のスピードを緻密に制御し、タイヤと地面との摩擦力(グリップ力)を適切な状態に保ち、転倒を防ぐことが出来るシステムもあります。

なお、現在、バイクに搭載されているトラクションコントロールは、その目的から大きく分けて2つあり、車体が滑るのを防止して安全性を高めるものと、エンジンパワーを効率良く使って走行性能を高めるものがあります。

例えば、雨の高速道路、砂利やダートなど、滑りやすい路面を走行している時には、リアタイヤがグリップを失ってスリップしやすくなるのですが、そのような状況をトラクションコントロールが検知して、タイヤのグリップ力を回復させ、バランスを崩して転倒することを防いだりしています。

また、走行性能を追求するスーパースポーツでは、強大なエンジンパワーによってタイヤがスリップすることを防ぎ、確実にエンジンパワーを路面に伝え推進力とすることを目的に、トラクションコントロールが装備されることもあります。

いずれにしても、最適なトラクションを掛けることで車体の安定性を保つことには変わりはありません。特殊な場合を除き、一般的なバイクの楽しみ方においては、効率よく安全に走るために、トラクションコントロールはなくてはならない装備になってきているのです。

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