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【テクニカル】ABSってなんですか?

みなさんこんにちは。トライアンフ東京の蔡誠司です。

先日、トラクションコントロールの記事を書きましたが、その中で少し触れていたABS(アンチロックブレーキシステム)について、今回はお話ししたいと思います。

■ABSの歴史

ABS(アンチロックブレーキシステム)とは、ブレーキを強く握りすぎたとき、または滑りやすい路面でのタイヤロックを防ぎ、安全かつ短い距離で停止することをサポートするブレーキ補助装置です。

最近では広く利用されるようになり、バイクにも標準装備されるようになりましたが、このABS、最初の導入は鉄道からでした。

一般的に鉄道は「鉄製の車輪」を使用していますが、ブレーキをかけた時に車輪がロックした場合、レールとの摩擦で大きな振動や異音が発生する問題がありました。

この問題を解決するために、1936年、ドイツのロバートボッシュ社が鉄道の車輪のロックを防ぐ装置を開発したのですが、これがABSの始まりとされています。

また、当時の飛行機の着陸時にも同様の問題があり、1947年にはイギリスのダンロップ社がこの技術を応用して、飛行機用のABSを開発しました。

当時のABSは現在のものとは違い、どちらかといえばブレーキ性能よりも車輪等の損傷を防ぐ役割の方が大きく、その動きもかなり粗かったようです。

その後、自動車の普及に伴い事故が増加すると、安全性の向上が求められるようになり、自動車業界でもABSの技術が注目されるようになりました。

自動車へのABS搭載(4輪すべて制御)は1978年にメルセデス・ベンツが世界初、バイクへのABS搭載は1987年にBMW・K100が最初となります。

※wikipediaより

日本におけるバイクへの普及は、世界のABSシステム開発を牽引するボッシュ社の「ABSを標準装備すればバイクの死亡事故の4分の1が防止できる」との発表から本格的になりました。

そして、2018年の新型車よりバイクのABS搭載が義務付け(※一部除外車両あり)られるようになったのです。

■ブレーキが効くまでの流れとABSの仕組み

ブレーキが効くまでの流れは、①ブレーキレバーを握る→②マスターシリンダーが押されて油圧が発生する→③その油圧がブレーキホースを通りブレーキキャリパーへ伝わる→④ブレーキパッドがブレーキディスクに押さえつけられる→⓹パッドとディスクの摩擦により車体が前に進もうとする運動エネルギーが熱エネルギーに変換され空気中に放出される→⑥車速が落ちる(ブレーキが効く)となります。

この一連の流れの中で、ブレーキを必要以上に強く握りすぎてしまったり、また滑りやすい路面でのブレーキはタイヤがロックしやすく、転倒したり、制動距離が長くなったり、最悪、事故につながる可能性もあります。

そこで、センサーでタイヤの状況を検知して、ロックしたら(しそうになったら)一瞬だけブレーキを緩めてロックを防ぎ、再びブレーキを掛ける、この動作を瞬時に繰り返し、安全な減速を可能にしているのがABSなのです。

基本的なABSの仕組みは、ホイール(ブレーキディスク)に取り付けられたセンサーを使って車輪の回転速度を計測し、この情報をもとにコントロールユニットが「タイヤの回転数」と「速度」を監視します。

この「タイヤの回転数」と「速度」の差が大きい場合にタイヤがロックしていると判断をして、コントロールユニットがブレーキの効きを一瞬緩めてロックを回避し、そして、ロックが解除されたら再びブレーキをかけていくようになっているのです。

■ABS搭載のメリット

ABSが搭載されたバイクには、大きく3つのメリットが考えられます。

まず、急ブレーキをかけた時に転倒しづらくなります。

もし、ABSのないバイクで急にブレーキを強く握りしめた場合、ブレーキの制動力がタイヤのグリップ力を超えると、タイヤがロックしてスリップしてしまい、転倒しやすくなってしまいます。

一方でABSが搭載されているバイクでは、力いっぱいブレーキをかけてもポンピングブレーキを自動的に行いながら減速できるため、タイヤのロックを防ぎ、転倒しづらくなるのです。

次に、路面状況が悪くても止まりやすくなることが挙げられます。

砂利道や雨で濡れた路面では、スリップしないようにブレーキを掛けると思うのですが、ABSがないバイクでは、そのコントロールが難しく制動距離が伸びてしまうのが一般的です。

そこをABSが搭載されているバイクであれば、タイヤロックによるスリップ防止を機械的(自動的)に行ってくれますので、路面状況が悪くても思い通りの位置で停止しやすくなります。

そして、何よりバイクの運転に集中しやすくなる点は大きいです。

バイクの運転操作の中で、安全・確実に減速するという操作が実は一番難しく、スピードを出すほどに、その難易度は高まっていきます。そのため、ABSのないバイクを運転中、咄嗟の判断で急ブレーキをかけた場合、その操作にだけに意識が向いてしまい、他の操作に遅れが生じ、転倒につながったりすることがあります。

しかし、ABSが搭載されているバイクであれば、急ブレーキをかけてもタイヤロックによるスリップ・転倒は防げますので、その安心感や気持ちのゆとりがある分、スロットルやハンドル操作等に集中できるようになります。

これにより、例えば疲労で集中力が低下しやすいロングツーリングの走行でも、事故の発生リスクを抑えられるのです。特に、免許を取得して間もない初心者ライダーには必須アイテムだと思います。

ABS搭載によるデメリットは一般車両においては見当たりませんが、どれほど高性能なABSであっても高速で走行していればバイクは止まりにくくなります。

もちろん、ABSの搭載でバイクの安全性が高まるのは言うまでもないのですが、「100%安全というわけではない!」という事を忘れてはいけません。

■安全運転のために

安全運転のためにはABSのような補助装置も大切ですが、やはりライダー自身のブレーキワークやアクセルワークなどの運転技術の向上は必要です。

バイクのブレーキ操作は、教習所で習う一般道を前提としたブレーキングと、サーキットでのスポーツ走行を前提としたブレーキングで、速度域の違いから考え方や操作に若干の違いがありますが、基本は同じです。

まず、前後ブレーキそれぞれの役割は、フロントブレーキが主に車速コントロール、リアブレーキが姿勢コントロールで、これはABS搭載車でも非搭載車と同じです。

リアブレーキで車体を安定させつつ、フロントブレーキを緩やかに握り込み、徐々に強めていくのが基本的なブレーキ操作です。

なお、ABS搭載車は緊急時に前後ブレーキを強くかけてもタイヤロックは避けれますが、急ブレーキの時は車体が不安定になるのと併せて、身体が浮き気味になります。

こうなると、上半身に力みが生じて、ハンドル操作がスムーズにできなくなり、結果として転倒リスクが高まりますから、咄嗟の時でも足や腿で車体をしっかり挟み込めるよう、普段からニーグリップを意識した乗車姿勢をとりましょう。

どれだけ技術が進んで安全装備が充実しても、最後はライダーの判断に委ねられるという事は、今も昔も変わりません。基本を大切にして、安全運転でバイクを楽しみたいものですね。

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【テクニカル】トラクションコントロールってなんですか?

みなさんこんにちは。トライアンフ東京の蔡誠司(さいせいじ)です。

最近のバイクは安全性、快適性、省燃費性などを高めること目的として、様々な制御をコンピューターで行うようになってきています。

その中でも、今回はリアタイヤが空転したときにエンジンパワーを抑えて、スリップダウンを防ぐ効果のあるトラクションコントロールについて、お話ししたいと思います。

そもそも「トラクション」とは何でしょうか。これは簡単に言ってしまえば、タイヤが地面を蹴る力、車体を前に押し出す力と考えると分かりやすいと思います。

タイヤと地面が接地する部分には摩擦力(グリップ力)が生じますが、この摩擦のお陰でエンジンのパワーをタイヤから地面に伝えることができて、初めて車体は前に進むことが出来るのです。

しかし、滑りやすい路面だったり、必要以上のパワーを掛けたりすると、その摩擦力(グリップ力)を越えてしまうことがあります。そうなるとタイヤは空転してしまい、車体を前に押し出す力が逃げてしまいます。この状態がスリップと言われる状態です。

車体はタイヤが摩擦力(グリップ力)の範囲内で路面をとらえて加速している状態が最も安定しているのですが、その反面、摩擦力(グリップ力)が失われている時は非常に不安定になってしまいます。

特にコーナーリングの最中であれば、そこに遠心力も加わります。この時、タイヤの摩擦力(グリップ力)は直進時の縦方向だけでなく、横方向の踏ん張りにも使われますので、スリップによる転倒を起こしやすくなってしまうのです。

このようなスリップ状態になった時には、摩擦力(グリップ力)を回復させるためにエンジンパワーを落とし、スピードを落とすのが有効な方法なのですが、これを瞬間的に判断して操作するのは難しかったりするものです。

そこで、車体に取り付けられたセンサーで状況を把握して、電子制御でスピード(エンジンパワー)のコントロールを人間に代わって行ってくれるのがトラクションコントロールなのです。

トラクションコントロールの歴史は古く、1935年まで遡ります。四輪車でカーブを通過する場合、外側と内側のタイヤの軌跡は異なります。当然、外側の方が軌跡が長くなりますので、スムーズに曲がるためには、外側のタイヤと内側のタイヤに回転差(外側>内側)が生じるようにするデファレンシャルギアと言うものが付いています。

しかし、このデファレンシャルギアは、その構造上、片方のタイヤがスリップ(空転)してしまうと、その空転した方ばかりにパワーを伝えてしまうのです。

もし、スリップ時にこのような状態になると、エンジンパワーを有効に使えないばかりでなく、タイヤに駆動力が伝わらず走行安定性まで低下してしまうのです。

そこで、その状態を解消する事を目的に開発されたのが、リミテッドスリップデフ(通称:LSD)と言う機械式の装置で、これがトラクションコントロールの始まりと言われています。

このLSDは四輪車のスポーツ走行には欠かせない装置で、その用途に応じて様々な形式(1way-1.5way-2wayなど)が作られ、今でも使われています。

その後、1970年頃になると電気式のトラクションコントロールが登場します。ホイールにセンサーを付け、回転差を感知したら作動する現代とほぼ同等の方式です。そして、1980年代に入るとラリー(主に未舗装のスリップしやすい悪路で行われる四輪車のレース)の世界で、走行性能の向上を目的に発展していったのです。

※TOYOTO GAZOO RACING より

このように、トラクションコントロールはエンジンパワーを有効に使う、悪路でのスリップ防止が目的で開発された技術だったのですが、結果としてスリップによる事故を防ぐことに繋がっていったため、安全性を高める目的で一般車に広がっていったのです。

今では四輪の世界にとどまらず、その有効性から二輪の世界にまで浸透しており、トライアンフでは全車にトラクションコントロールが装備されています。

基本的な仕組みは、センサーが前後ホイールの回転差を検知した時に、ECUというエンジンコントロールユニットが点火タイミング、燃料の噴射量、スロットルバルブ開度を調節することでパワーを抑え、リアタイヤの空転(スリップ)を抑えることでトラクションを回復するといったものです。

また、車種によってはIMUという慣性計測装置と組み合わせることで、バンク角までも考慮して、コーナーリング時のスピードを緻密に制御し、タイヤと地面との摩擦力(グリップ力)を適切な状態に保ち、転倒を防ぐことが出来るシステムもあります。

なお、現在、バイクに搭載されているトラクションコントロールは、その目的から大きく分けて2つあり、車体が滑るのを防止して安全性を高めるものと、エンジンパワーを効率良く使って走行性能を高めるものがあります。

例えば、雨の高速道路、砂利やダートなど、滑りやすい路面を走行している時には、リアタイヤがグリップを失ってスリップしやすくなるのですが、そのような状況をトラクションコントロールが検知して、タイヤのグリップ力を回復させ、バランスを崩して転倒することを防いだりしています。

また、走行性能を追求するスーパースポーツでは、強大なエンジンパワーによってタイヤがスリップすることを防ぎ、確実にエンジンパワーを路面に伝え推進力とすることを目的に、トラクションコントロールが装備されることもあります。

いずれにしても、最適なトラクションを掛けることで車体の安定性を保つことには変わりはありません。特殊な場合を除き、一般的なバイクの楽しみ方においては、効率よく安全に走るために、トラクションコントロールはなくてはならない装備になってきているのです。

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